鈴川幼稚園
志田 直正
鈴川幼稚園は、富士市の東部に位置し、創立60有余年になります。雄大な富士山、駿河湾、伊豆、箱根の連山等、四方に広がる見事な眺望とともに、園を包むように生い茂る豊富な樹木、近くの広大な公園等、園の内外とも自然環境に恵まれ、これを園の誇りにしています。 園庭の一角を占める太い数本のせんだん(栴檀)の木は、鈴川幼稚園の歴史とともに歩んできました。このせんだんの木と、砂地だけからなる広い園庭は、鈴川幼稚園のまさにシンボルであって、園児には独特の遊びと生活の場を提供しています。せんだんは、四季を通じてその姿を変化させながら絶えず園児により添っています。時には遊具になり、また時には園児をすっぽりと包む広い遊び場を提供してくれます。 春先には、樹木一面に可憐なうす紫色の花を咲かせ、長年親しまれてきた「せんだん組」(年長組)の卒園児を、名残惜しみながら見送ります。入れ替わりに新学年、入園児をやさしく歓迎してくれます。間もなくせんだんは新芽を吹き、瞬く間に緑の衣をつけます。 夏が近づくにつれ、濃い緑の葉が幾重にも分厚く茂り、その下の遊具で夢中に遊び戯れる園児を、灼熱の太陽からしっかりと守り、涼風さえ添えてくれます。群がる蝉の大群を、園児はあみを振りかざして夢中で追い求めます。せんだんの木の夏場に果たす役割は、実に多様で貴重です。 夏が去り、日陰をつくる役割を果たし終えたせんだんは、秋口からかなりの期間をかけて、その葉をすっかりと落とし園庭を埋め尽くします。砂地に敷き占めた落ち葉の絨毯の上を、はだしで走り回ります。見上げると、葉を落とし切ったせんだんの枝は、鈴なりに実をつけ、間もなく一面、黄金色の実で飾ります。実の落ちるのを待ちきれず、子どもたちは棒を振りかざして実を落とし、夢中で拾います。貴重な宝物を獲得した気持ちになって、数えながら大切にカップに入れてご満悦です。 本格的な冬場になると、せんだんは枝の間から射し込む陽の光を集めて、子どもたちの集う陽だまりをつくってくれます。そのもとで寒さを忘れて、ブランコ、滑り台、砂遊び、お話に興じる子どもたちを静かに眺めています。せんだんは四季を通して絶えず園児に寄り添い、園児を育みながら、ともに成長していきます。 卒園式が近づくと、鈴川幼稚園の園歌「せんだんの花の咲く頃」の曲が、歌声とともに、せんだん組の教室から流れてきます。卒園式に万感こめて歌われるこの園歌は、いつまでも卒園生に親しまれ、口ずさまれることでしょう。いつも寄り添い、慕われた「せんだんの四季」を懐かしく思い浮かべながら。