ひとつぶのラムネ

野間自由幼稚園
園長 山口 和人
「バラバラバラ~」先生が絵本を開くと、ラムネがたくさん落ちてきました。
「えっ! いったいどうなってるの?」
眼をまんまるにした園児たちと一緒に、私もビックリです。
「ひとり一つずつね~」
子どもたちがワ―ッと集まります。
毎月開いているお誕生日会の演し物で、先生がマジックを披露してくれたのでした。
あれ? ふたつ拾っている子もいるなあ。
すこし離れて様子を見ていた新米園長の私のところに、園児がひとり、自分の席に戻りがてら、「園長先生、これあげる!」とラムネをひとつ差し出しました。
「あっ、ありがとう!」
まったく予期しなかった優しさに、ほあっと胸が温かくなります。
野間自由幼稚園は、出版社・講談社と関係があります。園長も、代々講談社の関係者が就きます。この仕事を引き受けるにあたって、私はとてもうれしく思いました。なぜなら子どもという存在が大好きだから。しかし正式に就任するまでの間に、この責任の大きさは並大抵のものではないぞ、と考えるようになりました。なんといっても、大切なお子さんの、かけがえのない命をお預かりするのだから……
講談社退職の日、同僚に「新しく園長先生になる気持ちはどうですか?」と尋ねられました。私は「命を預かる責任の重さに圧倒されます」と答えました。するとその同僚は、「山口さん、命だけではありません、心も預かっているんですよ」と言われました。
園児がくれたひとつぶのラムネは、まだ私の机の上に乗っています。
私にはその思いがけない贈り物が、子どもたちの心を象徴しているように思えるから。