
東光幼稚園
小西 則子
ある日、主人がイカリングフライを買ってきた。 「おいしいから食べてみる?」 そう勧められてられて噛んだ途端、〝ジャキッ〟といやな音がした。続いて襲ってきたのは、激しい痛み。しかも今まで体験したことのない、強烈なものだ。それからというもの、水を飲んでも、息を吸っても、口の中に刺すような痛みが走る。歯医者が苦手な私だが、この時ばかりはやむにやまれず、急いでかかりつけの先生に電話をした。 「すみません、なんとかしてください」 しかし、受話器越しに返ってきたのは、いかにも申し訳なさそうな返事だった。 「すみません。あいにく今日は予約でいっぱいで、時間を取ることができません。明日の朝一番で診察しますので、明朝いらしてください」 その瞬間、私はあまりのショックに言葉を失ってしまった。このまま痛みに耐えながら一晩過ごすのかと思うと、身震いするほどの恐怖をおぼえた。 次の日、なんとか朝を迎えることができたものの、痛みはまだまだ容赦なく続いていた。いつものように幼稚園の鍵を開け、子ども達が登園するのを待っていたが、実際はそれどころではない。苦痛のあまり、ひたすら手で頬を押さえ続けるしかなかった。 すると、ただならぬ様子を敏感に察してくれたのだろう。一番に来た園児が近くまで寄ってきて、心配そうに声をかけてきた。 「園長先生、どうしたの?」 「先生ね、とっても歯が痛いの」 小声での弱々しい返事に、その子はますます心配そうに顔を曇らせた。 「歯医者さんになおしてもらったら」 「そうするね。今から行ってくるね」 「園長先生、頑張って」 園児からの励ましを受け、私は勇気を出して、ほうほうの体で歯医者へと向かった。 「歯が欠けて、その間から神経が出ていますね。これは痛かったでしょう」 歯医者に着き、同情を隠さない先生に麻酔をかけてもらって、ギーギーというあの不快な音に耐えること四十分。すっかり痛みが消えた私は、うきうき気分で園に戻った。すると私の姿を見つけたさっきの園児が、遊びの輪からわざわざ抜けて駆け寄ってきた。 「園長先生、治った?」 走りながらの問いかけに、私は笑顔で返事をした。 「治ったよ、ありがとう」 「園長先生、よかったね!」 途端にあたたかいものが胸一杯に広がった。ありがとう。ありがとう。私はなんて幸せ者なんだろう。 いつもいつも子どもたちの笑顔から元気をもらっている。また子どもたちはいつも面白いことを言って、私をお腹の底から笑わせてくれる。そして、「幼稚園が大好き」。私が一番うれしいことを言ってくれる。ありがたい。ありがたい。 幼稚園という、子どもたちと一緒にいられる環境に、心から感謝している毎日です。