学校法人 常盤学園 新屋幼稚園 西町幼稚園
鈴木 裕子
幼稚園教育要領が改訂となり、幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿について当園でも話し合いをもち、取り組んでいます。 しかし、評価の時代に育っている私たちは、10の姿にあてはめようとするあまり、子供の行動パターンからこの時は自分はどう対応したらいいか、この行事はどう考えればいいか、戸惑い、対処の保育になってしまい連日話し合いが続きました。 保護者会でも教育要領が改訂された事、内容、関わり等説明をさせて頂きました。帰り際、園児の父親が「園長先生、僕は幼稚園の頃、一人で遊んでいると担任が来て、みんなと一緒に遊ぼう!と言って手を引き、連れていかれましたよ、僕は一人で友達の遊んでいる様子を見ていたかったし、空や木を見ていたかったのに嫌だったなぁ、先生は僕のことをみんなと遊べない子、寂しそうな子と思っていたんだろうな」と仰いました。幼稚園の頃の自分の思いが引き出されたのでしょう、ずっと思っていた事に驚きました。現在彼は、人から大きな信頼をもって個人の問題、相談を受けるご職業に携わっています。幼児期から人を探究し、今のご職業に深く関連しているのかもしれません。 A君の事例です。A君は、納得がいかない事があると急に怒り出し、友達に暴言、物を投げる、高い所に登るという行動になり、危険を伴う時は止めるのが精一杯、落ち着かせてから理由を聞き、気持ちをきいてもらうと、おんぶ・抱っこをせがむ。家では困った事はない、家庭と園の様子が違う、「この子は私たちに何を訴えているのだろうか」 両親共働き、朝早くから遅くまで園で預かり、祖母送迎、母は体調の変化によってA君との関わりがうまくもてない。「お母さん、僕の話を聞いて欲しい」とA君、解っていてなかなかできない母、A君の寂しさが痛い程伝わってくる。本児の気持ちを聞いてくれる場がない、と感じた。 先日、ソン・ウォンピョン著の「アーモンド(扁桃体)」と佐々木正美(児童精神科医)の「子供へのまなざし」を読んだ。前書は、扁桃体が人より小さく感情を感じることができず、人の感情もよく読めない男の子の物語である。佐々木正美先生は、最近喜びとか悲しみの感情の表現ではなく、怒りの感情ばかりの表現が多くなってきたのではないか、と危惧されていた。 『この子がどういう思いで一瞬一瞬を過ごしているのか』幼児期は木の根っこ(土台)、人間形成のできる大事な時期、だからこそ子供の姿から心(気持ち)を深く読む保育者を目指さなければならないと今日痛感しています。