「しずおかこども幸せプラン」始動!
こどもの「こえ」を真ん中に、園の「遊びの価値」を社会へつなぐ
(公社)静岡県私立幼稚園振興協会 子育て支援委員会は、このたび、令和7年度から始動した静岡県の新たなこども施策の指針「しずおかこども幸せプラン」(以下、本プラン)について、10月20日(月)に静岡県健康福祉部こども若者局こども政策課長 芦澤裕之様、こども未来課長 松本 文様、幼児教育推進室長 石川和巳様にインタビューを行いました。静岡県では本プランに基づき、すべてのこども・若者の「こえ」を真ん中に、誰もが自分らしく幸せに生きることができる社会の実現を目指す取組を進めています。
本記事では、インタビュー内容と資料に基づき、特に就学前教育に関わる内容や、協会が今後県と連携すべきポイントを重点的にまとめています。
I. プラン策定の背景と「こども第一主義」の理念
1. 複数の計画を統合し、こどもの権利を重視
本プランは、「こども基本法」の施行および国が定めた「こども大綱」に基づき、策定されました。従来の「ふじさんっこ応援プラン」と「ふじのくに若い翼プラン」など、既存の複数の子ども・若者関連計画を統合・再編し、一本化したものです。計画期間は令和7年度から令和11年度までの5年間です。
2. 基本理念:「こえ」を真ん中に
本プランが最も重視する基本理念は、「すべてのこども・若者の“こえ”をまんなかに、誰もが自分らしく幸せに生きることができる社会の実現」です。こども・若者は社会をともにつくる権利主体であると明示されており、その意見を施策に反映させる「仕組み」を設けることが、こども基本法の趣旨に則り重視されています。実際に、オンラインプラットフォーム「こえのもりしずおか」を開設し、約2,000件のこども・若者からの意見を収集し、計画の本文中に「こえ」として掲載する、県として過去に例を見ない画期的な取組を行っています。
3. 「幸福度」を測る主観的KPI(目標値)の設定
本プランでは、県民一人ひとりの幸福実感(ウェルビーイング)を重視するため、従来の客観的な指標に加え、当事者の主観的評価に基づく数値目標(KPI)が設定されています。
| 指標 | 現状値(R6年度) | 目標値(R11年度) |
| 大人や社会が自分の意見を聴いてくれていると思う こども・若者の割合 | 41.9% | 70.0% |
| 自分の将来に対する夢や希望を持っていると答えた こども・若者の割合 | 72.3% | 毎年度 90% |
| 子育てが社会から応援されていると思う県民の割合 | 35.4% | 70% |
このKPIの達成に向け、県は毎年アンケート調査などを通じて進捗を把握していく方針です。
II. 幼稚園・就学前教育に関わる主な施策
1. 幼児教育の充実を図り、幼保連携を強化する組織体制
本プランの策定にあわせ、県庁の組織体制にも大きな変化がありました。従来教育委員会に属していた幼児教育機能が「こども若者局」(健康福祉部)に移管され、「幼児教育推進室」が設置されました。これは、「保育(福祉)」と「教育」の垣根を越え、幼稚園、こども園、保育所等と、小学校との円滑な接続(幼保小接続)を強化し、県全体で幼児教育の充実を図ることを目的としています。
2. 「架け橋期カリキュラム」を通じた遊びの価値の共有と非認知能力の育成
(1) 遊びの価値の共有と認識ギャップ
就学前(幼児期)の施策として、特に「安全・安心な教育・保育による幼児期までのこどもの成長の保障と遊びの充実」が掲げられています。 現在、県は来年度の導入を目指し、幼稚園、こども園、保育所、小学校の教員、行政担当者が参加するワーキング部会を設置し、「幼保小の円滑な接続を実現するための共同カリキュラム(静岡県版「架け橋期のカリキュラム」作成の手引き)」を開発中です。 幼保小の円滑な接続における大きな課題として、小学校側が求める「一定時間静かに座れること」と、幼児期の教育において大切にしている「遊びを通じた学び」との間に認識のギャップが存在します。不登校の増加やこどもの多様化といった現状を踏まえ、社会全体で「きちんと静かにするこども」という画一的なこども観を見直す必要があるとされています。このカリキュラム作成の真の目的は、単に成果物を作るだけでなく、作成プロセスを通じて互いの教育を理解し合うこと、小学校の先生方に幼児期の「遊びの価値」を深く理解してもらうことにあります。例えば、園での水遊びが、小学校での算数における「かさ」の概念理解といった後の学習体系に繋がるなど、知識の早期教育ではなく、遊びの中での豊かな実体験を尊重し、その学びを小学校教育へ円滑に接続していくことが重要視されています。
(2) 非認知能力育成の推進と課題
本プランの計画書に「遊び・体験活動の推進と指導者養成 」が明記されていることは、非認知能力の育成を後押しする上で非常に有益であると評価できます。非認知能力は、遊びや自然体験、音楽、創作活動など多様な経験を通じて育まれます。県では、高校や小中学校で非認知能力育成プログラムの導入・改定が進んでおり、今後、幼児教育段階でのプログラムの開発・導入を教育委員会と連携しながら進めていくことも検討しています。 しかし、園が「遊びの価値」を発信しても、保護者の中には「小学校のために座る練習をさせるべき」という考えも根強く、園だけでなく家庭や社会全体でその価値を共有し、意識改革を進める必要があります。
3. 現場を支える支援体制
県は、施設種別(公立・私立、幼稚園・こども園・保育所等)を問わず、保育の質向上を目的とした研修や支援を実施しています。
- 専門家派遣(幼児教育サポートチーム訪問支援事業): 専門家(特別支援教育士、元園長、大学教員、日本語指導コーディネーターなど)を園の希望に応じて派遣し、質の向上を支援します。
- 幼児教育アドバイザー: 全ての市町に配置されていますが、市町によっては周知や活動に温度差があるため、私立園側からの要請があれば、県は市町と連携して支援を提供しやすくなるようです。
- ICT支援: これまで保育所に限定されていたICT導入や業務見直しに関する専門家派遣事業が、今年度から私立幼稚園も対象とされています。
III. 子育て当事者への支援と社会全体の意識改革
1. 「共育て」の推進と男性の育休取得支援
プランでは「共働き・共育ての推進、男性の家事・子育てへの主体的な参画推進・拡大」が掲げられています。特に、男性の育児休業取得を促進するため、静岡県は国が支給する給付金(最初の28日間)に加えて、さらにその後の28日間について、県独自の応援手当を支給する制度(静岡県男性育児休業長期取得応援手当)を導入しています。これには、職場全体で男性の育休取得を「おめでとう」と祝い、サポートすることが当然となる社会文化を醸成する狙いがあります。
2. 子育て家庭を応援する機運の醸成
「子育てが社会から応援されていると思う県民の割合」(目標値70%)の達成を目指し、県は社会全体で子育てを支える意識改革を推進しています。現在、子育て世帯への情報発信として「子育て優待カード」やポータルサイトを通じた情報提供が行われていますが、子育てに協力的な企業を応援する新たな施策も検討されています。県は、今いるこどもたちを大切に育てる環境を整備することが、結果的に人々の結婚・出産への希望実現に繋がるという、本質的なアプローチを重視しています。
IV. 幼稚園振興協会としての今後の連携
1. 積極的な情報活用と要請
今回のインタビューを通じて、協会としては、県と協力し、共通の目標(こどもの最善の利益の実現)に向かって進むことの重要性を再確認しました。これまでの私立幼稚園と県との関わりは、私学振興課を通じた私学助成関連のやり取りが中心であったため、こども施策全体の情報が現場の先生方や保護者に届きにくいという情報格差が課題となっています。今後は、県が推進する「幼児教育サポートチーム訪問支援事業」や「幼児教育アドバイザー」の活動、「業務改善・ICT巡回支援」などについて、各園が積極的に情報を活用し、県や市町へ支援の「要請(リクエスト)」を行うことが、連携強化の糸口となります。
2. 子どもの「本音」を届ける役割
本プランの基本理念である「こどもの声」を施策に反映させることは、園の現場においても重要です。子育て支援委員会では、小学校入学前のこどもたちを対象に、信頼関係のある園の教員がインタビュー形式で「園児の本音」を聞き出す試みを試験的に開始しています。こどもたちは、大人に忖度しながらも、環境や社会に対する意見をしっかりと持っています。幼稚園の先生方が日々の保育の中で引き出したこどもの声を収集し、発信する活動は、県の掲げる「大人が自分の意見を聴いてくれていると思うこども・若者の割合70%」というKPI達成に大きく貢献する可能性があり、今後県との連携の核となり得ます。協会は、県が発信する子育て支援に関する情報を、所属する幼稚園を通じて子育て世帯へ直接かつ一斉に伝える強力な広報ツールとして機能することが可能です。この強みを活かし、県と連携し、子育て支援策を確実に家庭に届けてまいります。
【編集後記】
今回の取材を通して、「しずおかこども幸せプラン」が、単なる行政計画ではなく、「こどもを真ん中に置く」という強い理念に基づいて策定されたことが確認できました。特に、幼児期の「遊びを通じた学び」の価値を、小学校や社会全体に理解してもらうための県の取り組みは、私たち静岡県私立幼稚園振興協会が目指す方向性と一致しています。しかし同時に、制度や計画だけでは解決できない「社会の意識」という大きな壁も存在します。私たち静岡県私立幼稚園振興協会は、この「しずおかこども幸せプラン」を、保護者の皆様や社会全体へ周知する“広報役”を担うとともに、県と連携し、こどもたちが「自分らしく幸せに生きることができる」静岡県づくりに貢献していきます。遊びは学びであり、この幼児期の豊かな実体験こそが、未来の社会を担う非認知能力を育む基盤となります。幼児教育現場からの「リアルなこえ」で「遊びの価値」を社会に届け、またプランの推進にも積極的に貢献していきたいと思います。 末筆になりましたが、公務ご多忙のところ取材にご協力いただきました、こども政策課長 芦澤裕之様、こども未来課長 松本 文様、幼児教育推進室長 石川和巳様に感謝申し上げます。
